胃・腸・口の病気が認知症につながる!? 最新研究

ウェルビーイング

体と心が健康的であるウェルビーイングな状態を保つには、いろいろな疾患リスクの予防はとても重要です。

今回は、年を重ねるごとに気になる「認知症」に関する最新研究を紹介したいと思います。

認知症の患者数は、2030年に推計523万人(高齢者の14%)に上るとされています。※1
認知症の最も一般的な原因である「アルツハイマー病」は、主に脳内の神経細胞が徐々に変性し、最終的には死滅することによって引き起こされる神経変性の病気です。
これにより、記憶や認知機能、思考能力に深刻な影響を与えます。

アルツハイマー病は主に脳に起こる疾患ですが、近年、消化管、腸内環境などの疾患や状態との関係が注目されています。
2024年に発表された以下の論文で、様々な消化管疾患とアルツハイマー病との関連について報告されています。

Kuźniar, J.; Kozubek, P.; Czaja, M.; Leszek, J. Correlation between Alzheimer’s Disease and Gastrointestinal Tract Disorders. Nutrients 2024, 16, 2366. https://doi.org/10.3390/nu16142366


1. ヘリコバクター・ピロリとアルツハイマー病

これまで、アルツハイマー病は脳内のアミロイドβの蓄積や神経原線維変化など、神経細胞レベルでの変性が主な原因と考えられてきました。

最近、消化管、特に腸内細菌叢の異常がアルツハイマー病の発症に影響を及ぼす可能性が高まっています💡
例えば、ヘリコバクター・ピロリ(H.ピロリ)は胃に生息する細菌で、胃潰瘍や胃がんの原因として知られています。
H.ピロリは、日本での有病率は女性で37.6%、男性で43.2%であり、若い人ほど有病率が低く、年齢が高いほど高いことも分かっています。※2
最近の研究では、H.ピロリとその有害な代謝産物が、口や胃・腸から中枢神経系に侵入し、神経炎症やアミロイド蓄積などを引き起こし、アルツハイマー病の発症、すなわち認知症へとつながる可能性が示唆されています。


2. 歯周病とアルツハイマー病

歯周病においてもアルツハイマー病との関連が明らかになりつつあります。
歯周病を引き起こすいわゆる”歯周病菌”(Porphyromonas gingivalisなど)は、血液中を介して脳に侵入し、神経細胞を破壊する可能性があるとされています。

歯周病菌のP. gingivalis、脳に移行してアミロイドβとタウタンパク質の産生を増加させる病原体で、歯茎などから血流を介して脳などに運ばれアルツハイマー病の進行に関与していると考えられています。

歯周病の患者は、アルツハイマー病の発症リスクが約1.7倍高くなることも分かっています。
また、アルツハイマー病を発症すると口腔ケアが難しくなるため、歯周病を引き起こしやすいことも報告されていて(※3)、これらは相互に関わるため特に両疾患の予防の観点で盛んに研究されています。

定期的な口腔ケアや歯科治療を行うことによって、アルツハイマー病の発症リスクが低下することも分かっているため、認知症予防にとって口腔ケアは重要と考えられます。

3. 腸内細菌叢とアルツハイマー病

腸内には、1000種類以上の細菌が存在しており、これらの微生物が脳の機能に影響を及ぼすことが分かっています。
腸内環境が変わることで、神経伝達物質や免疫系が影響を受け、認知機能にも影響を与えることが示されています。
特に、腸脳軸(腸-脳の相互作用)が注目されており、微生物代謝物は迷走神経を介して脳に影響を与えることがわかっています。

また、腸内の細菌叢の構成は加齢とともに変化します。
若い人では、FirmicutesBacteroidesよりはるかに多く存在しますが、この比率は加齢とともに逆転します。
また、高齢者では、細菌叢の多様性も低下し、炎症誘発性細菌が優勢になります。
AD患者の腸内細菌叢は、健康な人と比べて大きく異なり、炎症を引き起こす細菌の割合が多くなります、
例えば、Bacteroidesの細菌(炎症誘発性のFaecalibacterium prausnitziiを含む)が増加すると、腸から全身・脳へと炎症誘発性のリポ多糖類LPSを運び、炎症を引き起こすことが分かっています。

こうした腸内環境の異常がアルツハイマー病の発症に関与しているという事実から、プロバイオティクスプレバイオティクスの使用が治療において注目されています。
ビフィズス菌の摂取などプロバイオティクスによって腸内環境を整え、炎症を抑えることが、脳機能への低下を軽減させるとの報告があります。
βグルカンやラクツロースの摂取などのプレバイオティクスでも炎症の軽減が確認されています。

また、糞便移植(FMT)もアルツハイマー病の治療における新たな選択肢として注目されています。
動物実験では、FMTが認知機能の改善や炎症の減少に有効であることが確認されており、今後の研究次第ではAD治療に大きな役割を果たす可能性があります。


4. 認知症の予防

これらの研究結果は、アルツハイマー病の発症において、口腔や胃・腸など消化管は密接に関連していることを示しています。
腸内環境や消化管疾患の管理が、認知症の原因であるアルツハイマー病の予防や治療において重要な要素となる可能性が高まっており、今後の研究によってさらに明らかにされることが期待されています。

口腔ケアや、プロバイオティクス、プレバイオティクスなど、日常的に取り入れやすい習慣を、認知症の予防策として取り入れてみるのもよいかもしれません。

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参考文献
※1 国立大学法人 九州大学 認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究 https://www.eph.med.kyushu-u.ac.jp/uploads/information/0000000025.pdf?1717999124
※2 Ueda J, Gosho M, Inui Y, Matsuda T, Sakakibara M, Mabe K, Nakajima S, Shimoyama T, Yasuda M, Kawai T, Murakami K, Kamada T, Mizuno M, Kikuchi S, Lin Y, Kato M. Prevalence of Helicobacter pylori infection by birth year and geographic area in Japan. Helicobacter. 2014 Apr;19(2):105-10. doi: 10.1111/hel.12110. 
※3 Liccardo D, Marzano F, Carraturo F, Guida M, Femminella GD, Bencivenga L, Agrimi J, Addonizio A, Melino I, Valletta A, Rengo C, Ferrara N, Rengo G and Cannavo A (2020) Potential Bidirectional Relationship Between Periodontitis and Alzheimer’s Disease. Front. Physiol. 11:683. doi: 10.3389/fphys.2020.00683



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