誤嚥性肺炎とは?
本来気管に入ってはいけない物が気管に入り(誤嚥)、誤嚥によって引き起こされる肺炎のことです。
老化や脳血管障害の後遺症などによって、飲み込む機能(嚥下機能)や咳をする力が弱くなると、口腔内の細菌、食べかす、逆流した胃液などが誤って気管に入りやすくなります。その結果、発症するのが誤嚥性肺炎です。
※参考 厚労省サイト:誤嚥性肺炎
日本では、肺炎患者の約7割が75歳以上の高齢者であり、高齢者の肺炎のうち7割以上が誤嚥性肺炎ということが知られています。
参考 厚労省サイト:高齢化に伴い増加する疾患への対応について
今回紹介するのは、口腔を清潔に保つ舌磨きが、舌の筋力を活性化し、呼吸する力を高める!研究報告です。
高齢者の健康維持のために、舌磨きが役立つという研究結果が注目を集めています。
特に、高齢者における誤嚥性肺炎の予防が期待されており、舌の筋肉強化がそのカギとなっています。
日本の研究チームは、舌磨きが舌骨上筋の筋電活動を活性化し、呼吸機能を改善する可能性について以下の論文で報告しています。
Izumi, M., Sonoki, K. & Akifusa, S. Tongue brushing enhances the myoelectric activity of the suprahyoid muscles in older adults: a six-week randomized controlled trial. Sci Rep 14, 19746 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-70306-9
舌骨上筋は、嚥下や呼吸に重要な役割を果たしており、その活性化は高齢者の健康維持に不可欠です。
1. 舌磨きが舌骨上筋を活性化し、呼吸機能をアップ!
舌を磨くと、高齢者の呼吸機能が向上することがすでに実証されており、今回、その呼吸機能の向上が舌骨上筋が強化されたことによるもの、と仮説をたて、それを検証されています。
研究チームは、以下の臨床試験を実施しました。
・ランダム化比較試験 6週間
・参加者 65歳以上
介入群(開始20名→解析データ18名(平均88歳)):日常の口腔ケア+舌磨き
コントロール群(開始23名→解析データ18名(平均88歳)):日常の口腔ケア
・方法 舌の付け根から先端に向かって10回なでる
・主要評価項目 舌骨上筋の表面筋電図の電流量(筋の活動を示す)の初期と6週後の差
・副次評価項目 呼吸機能の初期と6週後の差
・解析 肺活量と舌骨上筋の変化率の相関(Spearmanの相関、一般線形モデルの使用)など
介入群は、呼吸機能である「肺活量」や「呼気流量」が、初期と6週後の比較で有意に増加していました(コントロール群は有意な差はなし)。
また、介入群では、呼気(息の吐き出し)、舌圧」、水の飲み込み、舌磨き時の「舌骨上筋の活動」が、初期と6週後の比較で有意に増加していました(コントロール群は有意な差はなし)。
これら、呼吸機能と舌骨上筋の活動の変化率の相関を各項目同士を確認したところ、特に「呼気時の舌骨上筋の活動」と「肺活量」で有意な正の相関(Spearmanの順位相関係数)が(Correlation efficiency=0.442, p=0.007)確認されました。
また、性別や年齢、歯の数などで調整した一般線形モデルにおいて、「肺活量」変化率を「呼気時の舌骨上筋の活動」の変化率の相関(一般線形モデル)を確認したところ、正の相関(partial regression coefficient(説明変数の係数)=0.4±0.4, p=0.003)が確認されました。
これにより、仮説が支持され、舌磨きによって舌骨上筋の活動が向上し、呼吸機能が強化される可能性が示唆されました。
舌磨きによって舌骨上筋が活性化されることで、誤嚥を予防し、さらには肺炎のリスクを低減できる可能性があります。これにより、舌磨きは高齢者の健康維持において重要な役割を果たすと期待されています。
2. 舌磨きは簡単にできる予防策
こちらの研究結果は、舌の筋肉を活性化させることで、誤嚥や嚥下困難のリスクを低減するための予防策として推奨される根拠となるものと考えられます。
舌磨きは、特別なトレーニングや設備を必要とせず、口腔ケア+呼吸力向上の予防策として日常生活に取り入れやすい方法です。
誤嚥性肺炎の予防策としては、一般的に以下のようなものが推奨されています。
・口腔の清潔を保つ
・食事をとる姿勢や食事の形状を工夫する
・口の体操などで飲み込む力や呼吸する力を鍛える など
これらに加え、舌磨きについても、介護現場や歯科、あるいは各個人でも、誤嚥性肺炎の予防の取り組みの一つとして、検討される可能性が期待されます。
他にも、ウェルビーイングと口腔ケア関連の記事をあげています。
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