気候変動が心の健康(メンタルヘルス)に影響を与える

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気候変動が心にも影響を与える、報告があります。

気候変動が心の健康(メンタルヘルス)にあたる影響について、複数の研究結果を統合したメタアナリシスの文献について紹介します。
気候変動とメンタルヘルスの論文1017件の論文をスクリーニングされ、メタアナリシスには128件の論文が含まれています。

Walinski A, Sander J, Gerlinger G, Clemens V, Meyer-Lindenberg A, Heinz A. The Effects of Climate Change on Mental Health. Dtsch Arztebl Int. 2023 Feb 24;120(8):117-124. doi: 10.3238/arztebl.m2022.0403.

1. 短期的な気候変動のメンタルヘルスへの影響

気候変動は、洪水や嵐、火災、熱波や干ばつなどの自然災害や極端な気象の発生頻度と強度を増加させ、それが人々の生活に大きな影響を与えます。
これらの気候変動は、直接的な体の健康への影響だけでなく、心の健康にも深刻な影響を及ぼすことが知られています。

a. 洪水とメンタルヘルスとの関係

洪水は、気候変動によって頻繁に発生する自然災害の一つです。洪水後に「不安障害」や「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」、「抑うつ症状」の発生率が増加することが多くの研究で報告されています。
例えば、イギリスで行われたメタアナリシスによると、洪水の6〜12ヶ月後にはPTSDの有病率が一般の生涯有病率7.4%に比べて顕著に増加し、30.36%に達したことが示されています。
また、洪水被害者の心の健康の状態は、洪水が発生してから3年後もなお、被害を受けていない人々と比べて著しく低い状態にあります 。

さらに、洪水後のメンタルヘルスへの影響は、長期的な避難や経済的な困難、保険の問題などの社会経済的脆弱性が主な要因となっています。
また、子どもや若者は、洪水のような災害後のストレスに対する自己対応が難しく、よりメンタルヘルスへの負の影響が出やすいとされています 。

b. 嵐とメンタルヘルスとの関係

嵐や竜巻もまた、気候変動により頻発する自然災害です。これらの災害は、既存の精神疾患を持つ患者にとって大きなストレスとなり、さらにはこれまで健康であった人々にも新たな精神障害(特に不安障害やPTSD)を引き起こす可能性があります。
例えば、2006年にアメリカのニューオーリンズで発生した竜巻(ハリケーン・カトリーナ)の後、被災者の30日間の不安・気分障害およびPTSDの有病率は、それぞれ49.1%と30.3%に達しました

また、ハリケーンにより妊娠中の女性が受けたストレスが、その子供たちの幼少期の不安やストレスホルモンであるコルチゾールレベルの上昇(111.11 vs. 76.49 pg/mg、p =0.001)と関連していることも示されています 。
母親が受けた気候変動によるストレスが、母親の胎盤を通じておなかの赤ちゃん影響を与え、幼少期までその影響を残した、という研究であり、妊婦さんへの心のケアも重要であると考えられます。



c. 火災とメンタルヘルス

気候変動により増加する野火や山火事は、直接的な被害を受けた人々に深刻な精神的健康への影響を及ぼします。これらの火災の後、PTSD、うつ病、不安障害の高い有病率が報告されています。特に、子供たちは火災後に高いPTSD率を示しており、成長した後も成人期において不安障害の有病率が増加することが確認されています 。

2. 長期的な気候変動のメンタルヘルスへの影響

a. 猛暑(熱波)

気候変動の長期的な影響もまた、人々の精神的健康に大きな影響を与えています。例えば、猛暑や熱波は、精神疾患による死亡リスクの増加と関連しています。
猛暑で精神疾患罹患リスクは6.4 %増加した報告があります。
また、精神疾患が熱中症による死亡の最も重要な危険因子の一つで、猛暑の際に死亡するリスクを3倍(OR = 3.61)に高める報告があります。
猛暑では、アルコール、医薬品、違法薬物の使用が死亡リスクの上昇に関わるともいわれています。

b. 干ばつ

干ばつの影響を受けている、または受けていた人は、影響を受けていない人(13.3%対10.8%)よりも精神的な問題を抱える可能性が26%高い(OR = 1.26、p <0.01)ことが分かっています。
干ばつは、うつ病や不安障害の発症、ならびにアルコールや薬物の使用の増加を促進し、自殺率の上昇とも関連している報告があります。
オーストラリアの長期データによると、干ばつ指数の値が上昇すると、農村部の中年男性の自殺リスクが15%増加することが明らかになっています。
干ばつによって、農業従事者の生計を圧迫されると、心理的ストレス要因を引き起こす可能性などが示唆されています。

3. 気候変動によるメンタルヘルスへの間接的な影響

気候変動は、直接的な自然災害だけでなく、間接的な影響としても精神的健康に影響を及ぼします。
例えば、気候関連の避難や移住、食料不安は、精神的なストレスや不安を引き起こす要因となっています。
移住を余儀なくされた人々は、移住先での適応に苦しむことが多く、これが精神的健康に悪影響を及ぼすことが多くの研究で示されています 。

※厚労省から、「被災された方へ心の健康を守るために」、以下のような通知が出ています。

○ お互いにコミュニケーションを取りましょう
○ 誰でも、不安や心配になりますが、多くは徐々に回復します
○ 眠れなくても、横になるだけで休めます
○ つらい気持ちは「治す」というより「支え合う」ことが大切です
○ 無理をしないで、身近な人や専門家に相談しましょう
厚労省サイト:
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/hoken-sidou/disaster.html

気候変動などの影響で、生活環境が変わった方の心のケアはとても大切です。



4. まとめ

気候変動は、メンタルヘルスに対して深刻な影響を及ぼす多くの要因を引き起こしています。
特に、自然災害や長期的な環境変化により、心の健康問題のリスクが増加することが示されています。
今後、気候変動の影響を軽減するためには、特に子どもや若者、妊婦などへの支援が重要です。
社会全体での気候変動への対策が進められる中で、心の健康に対する影響も考慮した政策が求められています。

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