香りで仕事の疲労や眠気が改善!?職場のウェルビーイングを高める最新研究レビュー

ウェルビーイング

「視覚」、「聴覚」、「触覚」、「味覚」、「嗅覚」の五感の中で、西洋文化的には「嗅覚」はあまり重要ではない、とされる傾向にあります。
例えば、アメリカで実施された調査で、「視覚」、「聴覚」、「嗅覚」のなかでどれかを失うなら?の質問に、「嗅覚」を選択する割合が8割を超えたという報告もあります。※1
また、大学生へのアンケートでは、回答者の4分の1が「携帯電話」をもつためなら「嗅覚」を手放してもいいと回答、「1万ドル(≒約140万円)」のためでも「嗅覚」を手放してもいいと4分の1が回答しています。

しかし、嗅覚は、主に嗅覚系と体性感覚(三​​叉神経)系が相互に関連した感覚経路を通じて、空気中の様々な化学物質を検知し、様々な情報を我々に伝え、我々を守るために重要な役割をしています!

今回は、この「嗅覚」が、職場におけるウェルビーイングを支える!?研究レビューを紹介したいと思います!!


1. 仕事の疲労が香りで軽減?レビュー

仕事に”疲労”はつきもので、職場でのウェルビーイングを目指し、様々な対策が検討されています。
長時間の労働や集中力が必要な作業などは、体だけでなく心にも負担がかかります。
最近の研究で、香りによる嗅覚への働きかけで、仕事での疲労を和らげ、パフォーマンスを向上させる有望な手段であることが示唆されています。

2024年の以下の論文で、香りと疲労の研究をまとめたレビューが発表されました。

Jiang X, Muthusamy K and Fang X (2024) A scoping review of olfactory interventions for fatigue relief: addressing occupational health hazards. Front. Public Health 12:1409254. doi: 10.3389/fpubh.2024.1409254

今回紹介する論文は、2013~2024年1月の間に出版された嗅覚関連の文献から選定された28件の論文のスコープレビューです。

2. 職場での疲労と期待される対処法

交通事故の 20%〜30% が運転手の疲労に起因する、との報告があります。

また、米国で行われた研修医への調査で、勤務状況の異なるグループごとにMantel-Haenszel検定を用いて、疲労による重大な医療ミスを報告する確率を比較しました。
各グループにおける医療ミスの発生確率のオッズ比が算出され、
医療ミスの発生が、通常の勤務と比較して、長時間勤務を1〜4回行った月では3.5倍(95%信頼区間3.3–3.7)、5回以上行った月では7.5倍(95%信頼区間7.2–7.8)に増加したという報告があります。※2

疲労からくるミスや事故は大きな問題であり、職場での活動や作業を邪魔しない「香り」による疲労軽減対策は、最近注目されてきています。

3. ドライバーの眠気への効果 ペパーミント

ペパーミントの香りは神経活動を刺激し、覚醒度を高める効果があります。

眠気を感じたドライバーに30秒ごとに香りを噴射した際の、まばたきなどの計測から算出した覚醒度を測定した報告があります。※3
テストした香りは、ペパーミント、ローズマリー、ユーカリ、レモンの4種類。この中でペパーミントが眠気からの覚醒に一番効果的であることが分かりました。
ペパーミントは運転中に居眠りを防ぐために利用され、実際に多くの実験で運転者の注意力が向上し、疲労が軽減されることが確認されています。



4. 医療従事者への疲労軽減 ラベンダー・ローズマリー

手術室スタッフの疲労に対する、運動やラベンダーの香りの吸入による効果を評価した報告があります。
手術室の作業環境でのストレッチや筋肉トレーニングした群(運動群)、シフト中の2時間ラベンダーの香りを吸入した群(ラベンダー群)、何もしない対照群の3群で、疲労に関する項目を含むmulti-dimensional fatigue inventory(MFI)質問票への回答を行っています。検定には、ANOVAと反復測定ANOVAを使用されています。
運動群と対照群、ラベンダー群と対照群で、それぞれ疲労の平均スコアが対照群に対して低減し、統計学的有意な差が確認されました(p<0.05)。※4
ラベンダーの香りはリラックス効果があり、手術室内の医療従事者が使用することで、長時間の勤務中の疲労を軽減する効果が見られました。

また、ローズマリーのエッセンシャルオイルをマスクに1滴たらすことにより、交代勤務の看護師の眠気をやわらげ覚醒度を高める効果があることが報告されています。※5
ローズマリーオイルの主な化学成分は、α-ピネン、カンフル、1-8-シネオールです。1-8-シネオールを含むエッセンスは、心拍数、呼吸数、血圧を上昇させ、脳内のα波を減少、β波を増加させ、その結果、人の覚醒度を高める報告もあり、その作用機序も明らかになりつつあります。

5. その他の香りの疲労への効果

シトラス・オーランチウム:心筋梗塞患者の不安や疲労を軽減
オレンジ:運転中の疲労を軽減
レモン:注意力向上、運転者の眠気防止
いよかん・ゆず:疲労軽減、精神的な活力の向上、仕事パフォーマンスの向上 など

6. 今後の展望

疲労は、仕事の効率や職場の健康や安全に影響を与えます。
香りは、作業自体の邪魔をしにくいことも分かっており、疲労軽減対策として有望な手段であると考えられています。
本レビューにより、香りが職場環境での疲労軽減対策として使用されるための重要な情報を提供していると著者らは述べています。

職場のウェルビーイング香りの職場や運転環境での応用は、労働者の健康を守るだけでなく、効率向上にも寄与するため、今後注目され、研究も進んでいくことが期待されます。

 

参考文献
※1 Herz, R.S.; Bajec, M.R. (2022). Your Money or Your Sense of Smell? A Comparative Analysis of the Sensory and Psychological Value of Olfaction. Brain Sci. 12, 299. doi: 10.3390/brainsci12030299
※2 Barger LK, Ayas NT, Cade BE, Cronin JW, Rosner B, et al. (2006). Impact of Extended-Duration Shifts on Medical Errors, Adverse Events, and Attentional Failures. PLOS Medicine 3, e487. doi: 10.1371/journal.pmed.0030487
※3 Yoshida M, Kato C, Kawasumi M, Yamasaki H, Yamamoto S, Nakano T, Yamada M. (2011). Study on stimulation effects for driver based on fragrance presentation. In: MVA2011 IAPR Conference on Machine Vision Applications13-15 Jun. Nara: MVA2011, 332-335.https://www.mva-org.jp/Proceedings/2011CD/papers/09-26.pdf
※4 Akhule OZ, Nasiri E, Lotfi M, Mahmoodi A, Akbari H. (2021). The effect of concomitant exercise and inhalation of lavender fragrance on surgical technologists’ fatigue severity. J Health Safety Work.  11, 7–10.
※5 Nasiri A, Boroomand MM. The effect of rosemary essential oil inhalation on sleepiness and alertness of shift-working nurses: A randomized, controlled field trial. (2021). Complem. Therap. Clini. Pract.43, 101326. doi: 10.1016/j.ctcp.2021.101326

 



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